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医療従事者のメンタルヘルス2026.08.23

医療従事者が「しんどい」と言えない理由|病院で働いていた私が見たこと

私は以前、病院で医師事務作業補助者として働いていました。

診察室のとなりで、医師の書類を代わりに作る仕事です。心理職としてではなく、事務方として、病院という組織の中にいました。

そこで見たのは、「誰も、自分がしんどいとは言わない」という光景でした。

みんな疲れていました。それは見ていれば分かります。でも、誰も言わない。相談窓口はあるのに、使っている人を見たことがありませんでした。

なぜなのか。いま心理の仕事をするようになって、あのときのことを言葉にできるようになったので、書いておきます。


## 1. 病院は、ふつうの会社とは違う場所です

まず前提として、病院はほかの職場とかなり違います。

職種ごとの区切りが、はっきりしています。医師、看護師、薬剤師、技師、リハビリ職、事務。それぞれに専門性があり、それぞれの世界があります。

これは悪いことではありません。専門職の集まりなので、そうなるのが自然です。命を預かる仕事だからこそ、それぞれの責任の範囲がはっきりしている必要があります。

ただ、その結果として、「隣の職種の人に、自分の弱さを見せる」ことが、とてもやりにくくなります。

同じ建物の中にいても、相談できる相手は思っているよりずっと少ない。それが病院という場所です。


## 2. 噂には、尾ひれがついて回ります

これが、いちばん大きい理由だと思っています。

病院は、噂が回るのが本当に速い場所です。

しかも、そのまま伝わりません。伝言ゲームのように、少しずつ形が変わっていきます。話に尾ひれがついて、途中から別の話になっていることも珍しくありません。

一度回りはじめた話は、止められません。訂正しようとすると、かえって広がります。

そういう場所で、「最近しんどくて」と誰かに打ち明けるのは、かなりの勇気が要ります。

自分の話が、明日にはどんな形になっているか分からない。そう思ったら、口をつぐむほうが安全です。


## 3.「あの二人、ひそひそ話してた」になってしまう

もうひとつ。

相談する場面そのものが、見られてしまいます。

誰かと二人で話しているところを見られただけで、「あの二人、何か話してたよね」という話になる。何を話していたかは誰も知らないのに、話していたという事実だけが伝わっていきます。

相談の中身が漏れるかもしれない、という不安の前に、相談していたこと自体が知られてしまうという不安がある。

これは、職場の中に相談窓口を置いても解決しません。窓口に入っていくところを見られるからです。

「制度はあるのに使われない」の正体は、たいていここにあります。


## 4. そもそも、人と話す時間がありません

そして、これは身も蓋もない話ですが。

人手が足りていないので、全員が同じ時間に休憩に入ることができません。ひとりずつ、交代で抜けていきます。

つまり、お昼休みに誰かと話すという時間が、そもそも存在しません。

ふつうの職場なら、雑談のなかで「最近しんどくてさ」とこぼせることがあります。相談というほどでもない、ただの一言。実はあれが、いちばん効きます。

病院には、その一言をこぼす場面がありません。

そして、休憩室が休まる場所とはかぎりません。

休憩室には、書かれていないルールがあります。座る場所がなんとなく決まっている。長くいる人の発言が通りやすい。新しく入った人は黙っている。

そういう空気のある場所では、休まりません。体は休んでも、気は休まらない。その15分で、自分の心のことを考える余裕は生まれません。

そして、平日の日中に開いている相談窓口は、平日の日中に働いている人には使えません。これは制度の設計の問題であって、本人の意思の問題ではありません。


## 5. いちばん重いのは、「自分だけ甘えている気がする」

最後に、これがいちばん大きいかもしれません。

まわりも、ピリピリしています。

みんな忙しくて、みんな責任のある仕事をしていて、みんな限界に近いところで踏ん張っている。そういう場所にいると、「しんどい」と言うこと自体が、自分だけ甘えているように感じられてきます。

みんな頑張っているのに、自分だけ。

そう思った瞬間、相談という選択肢は消えます。

でも、これは錯覚です。

まわりが平気に見えるのは、まわりも同じように言えていないからです。全員が「自分だけがつらい」と思っていて、全員が黙っている。だから誰も声を上げない。

私が病院で見ていたのは、たぶんそういう状態でした。


## だから、外の人が必要なんだと思います

ここまで書いてきたことは、どれも本人の性格の問題ではありません。環境の問題です。

噂が回る。見られる。話す時間がない。休憩室も休まらない。まわりもつらそう。

これだけそろっている場所で相談できないのは、当たり前のことです。

だから私は、相談する相手は職場の外にいたほうがいいと考えています。

外の人間には、噂を回す相手がいません。会う場面を職場の誰かに見られることもありません。そして、あなたの職場の人間関係を一切知らないまま、話を聞くことができます。

「大したことじゃないんですけど」から始めてもらって構いません。
むしろ、大したことになる前に来ていただけたら、と思っています。


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